Q&A

障害者治療 Q & A 〔Question and Answer〕


 障害者治療に関する疑問にお答えするページを追加しました。
 日々治療の中で、院長が気になったことを随時掲載していきます。


障害者の歯科治療は難しいのでしょうか?
障害の種類・程度にもよりますが、嫌がり暴れる患者さんに良質の治療を提供する事はかなり難しいと言えます。特殊な方法を用いて治療しなければならないことも多々あります。また、身体予備力の低下した患者さんに対しては、モニター監視下で慎重に対応しなくてはならない場合があります。

障害者の行動管理法(取り扱い方)にはどの様な方法があるのですか?
以下の方法を患者さんの状態・治療内容等により使い分けています。

①行動変容法 
 種々の教育訓練法を用い徐々に慣らしていく方法です。これで出来ることが最も望ましいですが限界があります。脱感作法、ボイスコントロール、モデリング法などがあります。

②抑制治療(ネットなど) 
 強いストレスによる死亡事故も報告されており、長時間の抑制下治療は避
けるべきです。長くても30分以内とし、ストレスによる体温上昇に気を配るべきです。


③笑気吸入鎮静法(笑気麻酔)
 患者さんの協力が必要なため、有効なケースは限られます。


④静脈麻酔法
 咽頭部への水・血液などの流れ込みを防ぎながら気道確保しなければならず、かなりの技術を要します。比較的前方部位の短時間治療などに適しています。

⑤全身麻酔法
 良好な歯科治療環境を確保できますが、高度な専門知識・技能を必要とします。

笑気麻酔(笑気吸入鎮静法)は有効ですか?
 前提条件として、ある程度信頼関係が成りたち言うことを聞いてくれなければ効き目はありません。また、十分に効いたとしても鎮静効果は弱いため限られた患者さんにのみ用いているのが現状です。しかしながら、時として非常に有効な場合がありますので、比較的大人しい方の場合には試してみる価値はあるでしょう。

自閉症で体重が100kgを超える様な場合でも治療できますか? 
 重度の肥満で治療を嫌がり暴れるケースはよくあります。
以前、身長175cm・体重120kgの自閉症の方の抜歯を静脈麻酔下において行なったことありましたが、非常に大変でした。
肥満患者の問題点は体力的に制御が困難と言う事もありますが、安全管理の面から言うと、肥満による合併症(心肺系の予備力低下、高血圧症、糖尿病、肝臓病など)の存在が問題になります。そしてそれは医療事故に繋がります。安全管理の面から最善の治療が出来ず、抜歯して1回で終了せざるをえないこともあります。
血管もほとんど見えないことが多く、呼吸管理も非常に大変です。
以前は体重100kgを超える様なケースでも年令等を考慮し日帰り全身麻酔で通常内容治療を行なうこともありましたが、最近は、年令・身長などとの兼ね合いもありますが、一つの目安として、100kgを超える場合には原則として全身麻酔は行なっていません。先ず生活・食事等の乱れを改善することによる減量をお願いしています。 

 子供(健常者)に笑気吸入鎮静法(俗称:笑気麻酔、鼻マスク麻酔)は安全ですか? 
 一言で言えば非常に安全です。一般の歯科医院で使われている笑気濃度(30%以下)で事故が起きる事は通常考えられません。あまり経験のない歯科医師でも問題なく行なうことが出来ます。しかしながら、患者さんが快適と感じる状態(至適鎮静状態)には個人差があり、良質の鎮静状態を提供するためにはある程度の経験・コツを必要とします。例えば、10%位でも十分な場合もあれば、時として30%でも不十分な場合もあります。さらに、笑気濃度が30%を越えたあたりから“目がまわる”、“頭がジンジンする”、“気持ちが悪い”などの不快症状が出始めることが多いため、安易に濃度を上げるべきではなく、十分な患者観察をしながら調節していく必要があります。
そして、もし何か起こるとすれば嘔吐した場合ではないでしょうか。
ですから、笑気吸入鎮静法を満腹状態で受けるべきではありません。笑気濃度によっては大量に嘔吐し、その他の条件によっては誤嚥・窒息などの事故に繋がる可能性がないとはいえません。
以上を踏まえて行なえば笑気吸入鎮静法は、歯科治療が怖い患者さんにとって非常に有効な方法と言えます。 

知的障害、自閉症患者に入れ歯を入れることはできますか?
一言で言うと、やって見なければわからないと言う事です。
知的障害・自閉症患者に義歯(入歯)を入れるのは、主に2つの面での困難さがあります。1つは義歯が完成するまでの型取り、かみ合わせ、試適等の各段階の作業の困難さで、2つ目は出来上がった義歯を受け入れてくれるか、という事です。かなり難しいですが、今までに何人か義歯を作りました。そして実際に使っている方も数名おられます。
知的レベルとの相関性は必ずしもない様に思いますし、どちらかというと性格的な要因が大きいのかもしれません。また、親子関係が良好で親御さんが熱心なケースが成功しやすい印象もあります。
型取りを嫌がるため、途中の工程も含め静脈麻酔下に眠らせて行ない、最終的に入歯をセットしたらあまり嫌がらずに使っておられる方もいます。反対に各工程は嫌がらずに出来たにもかかわらず、義歯セットが出来なかったケースもあり先が読めない分野です。

19才の知的障害・自閉症患者ですが時間をかけてトレーニングしていけば普通に治療出来るようになりますか?
歯科疾患の病状との兼ね合いもありますが、何回かは試みる価値はあると思います。しかし限界があるということも知るべきです。理念としてはすばらしいと思いますが、現実は必ずしも理想通りにはいきません。トレーニングの段階としては例えば①診療室に入る②診療台に座る③診療台の上で歯磨きの練習をする④お口の中の診査を受ける⑤吸引器ををお口の中で使う⑥エンジンで歯の掃除をする⑦虫歯に仮のセメントを詰める⑧注射麻酔をする⑨歯を削り詰める、型を取る・・・・・・・。
これらの各段階を時間をかけ出来る様にするのですが、よく親御さんたちから耳にするのが“何年もかかって治療台に座れるようになったが、治療を試みた途端に逃げ出して病院にも入らなくなってしまった”、“慣らしている間に歯がボロボロになってしまった”などです。私の経験では、数回のトレーニングで不適応ならば、先ず何らかの管理法を用い治療を終了させ、その後の予防処置・定期健診で徐々に慣れさせるほうが患者さん本人・親御さんにとっても負担が少ないのではないかと思います。
また、慣れさせるがために負担のかかる治療を避け、結果として治療の質が低下することにも注意すべきだと思います。

歯科治療時に器具などを口に入れらると強い吐き気を催して治療が出来ません。何か良い方法はありませんか?
これは異常絞扼反射(こうやくはんしゃ)と言いまして、口腔~咽頭にかけての絞扼反射が亢進した状態です。
背景には歯科治療に対する恐怖心があり、過去の歯科治療時の嫌な経験などを指摘する専門家もいる様です(昨今流行のトラウマ論)。
対応法ですが、程度により異なります。

1)軽度の場合
・舌表面に食塩を一つまみ付ける
・口蓋後方部(喉チンコ付近)への表面麻酔
・笑気吸入鎮静法(笑気麻酔)

2)中程度の場合
 ・静脈麻酔

3)重度の場合
 ・全身麻酔

私の経験では殆どが静脈麻酔までの対応で治療可能でしたが、1例のみ全身麻酔が必要なケースがありました。
徐々に慣れて通常治療が可能になる場合もよくありますが、他者への依存度が強く、克服の意志のない方の場合には難しい様に感じます。